海外への製造部門移転の成否を決める自走化、その実現に向けてタイの「星」が奮闘




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2012年01月17日(Tue)
海外への製造部門移転の成否を決める自走化、その実現に向けてタイの「星」が奮闘

EPSON TOYOCOM(Thailand) Ltd. SAW Department
Chitnarong Pichitwong(チットナロン ピシットウォン)





 コスト削減を目的とした、製造拠点のアジア地域への移転。これは国内の電子デバイス・メーカーの常套手段である。すでに、多くの電子デバイス・メーカーが行っており、もはや珍しいものではない。
 しかし、「製造拠点を移転させれば、それで終わり」という生やさしいものではない。製造拠点の移転は始まりにすぎないのだ。移転させた後、新規製品の生産立ち上げや、製造トラブルへの対処などの課題が発生するたびに、日本国内から多くのエンジニアを派遣していてはたくさんのコストがかかる。これでは、せっかくのコスト削減効果が薄まってしまう。従って、現地のエンジニアだけで可能な限り課題を解決できるように、技術レベルを高めたり、知識量を増やしたり、スキルを高めたりする必要があるわけだ。いわゆる「自走化」が求められる。
 エプソントヨコムでは、マレーシアと中国(無錫と蘇州)、タイに、水晶デバイス製造の後工程を担当する工場を置いている。この中でマレーシアの工場は設立が1974年と古く、すでに自走化が可能なレベルに達している。しかし、タイの工場は現時点では、そのレベルに達していない。



 Chitnarong Pichitwong(チットナロン ピシットウォン)は、そのタイの工場で働くエンジニアである。表面弾性波(SAW:surface acoustic wave)デバイスを担当する。同氏の目下の課題は、「いかに自走化を実現するか」にある。そのため、技術力の強化などを狙って設立された「アドバンスト・エンジニアリング部門」の責任者を務めながら、目標の達成に向けて日夜、努力を続けている。そんな同氏に、仕事の内容や仕事のやりがい、タイという場所の良い点などについて聞いた。

◆まずは、仕事の内容を教えてください。
Chitnarong ETTH(EPSON TOYOCOM(Thailand) Ltd.)において、SAWデバイスの製造部門、技術部門、メンテナンス部門の責任者を担当しています。「何て、たくさんの部門をカバーしているんだ」と思われるかもしれませんが、小さな部門ですので一人で十分にやっていけます(笑)。2012年1月には、従来は日本の福島事業所で製造していたHFF (high frequency fundamental)水晶発振器がETTHに移管されます。その製造管理や生産改善といった仕事も私の担当業務になります。
 SAWデバイスとHFF水晶発振器は、とても似ていると感じています。いずれも、ニッチなマーケットに向けたもので、市場での需要や生産数量は音叉型水晶振動子などと比べれば非常に少ない。このため、製造部門に配置される人員数は多くない。しかし、それは決してデメリットではありません。製造ラインの変更や改善などを行う際の指示が、所属部員全員に伝わりやすいというメリットがあります。
 それから最近、仕事がもう一つ増えました。「アドバンスト・エンジニアリング部門」の責任者という仕事です。この部門はETTHの未来を見据えた会社横断型の組織で、技術力の強化や知識量の増強を目的としています。恐らく、今後ETTHに製造が移管される品目が増えていくと思われます。しかし、現状の技術力や知識量では、それに対応するのは不十分です。このままでは、移管作業がスムーズに進まない可能性がある。こうした状況に陥らないようにするために、各技術メンバーの知識を共有したり、技術的な課題を解決したりしています。まだ、取り組み始めたばかりで、いろいろ大変ですが、とてもやりがいがある。技術メンバーひとり一人の技術力やスキルを高めることが、ETTHの自走化につながるからです。

◆もう少し具体的な仕事の内容が知りたいです。典型的な1日を例に、説明してください。
Chitnarong 毎朝、会社に着くと、前日の製造状況をまとめた報告書に目を通します。工場は24時間体制で動いています。従って、私が帰宅した後も、工場では水晶デバイスの生産を続けているわけです。その間の生産について、計画通りに進んでいたのか、歩留まりはどの程度だったのか、トラブルは発生しなかったのか、などを確認します。その後、製造部門や技術部門、メンテナンス部門の担当者を呼び、問題があれば報告を受けます。

 9時からは朝会です。各部門の担当者など、7〜8人のメンバーが参加する会議です。進ちょく状況の確認や、その日にやらなければならないことを確認するほか、課題があればみんなで検討して対策方法を練ります。
 朝会の後は、長期的なテーマの進ちょく状況を確認します。まぁ、「ほう・れん・そう」の一環ですね。

◆タイでも「ほう・れん・そう」という言葉が使われているのですか。
Chitnarong ええ、日本語の報告・連絡・相談で「ほう・れん・そう」ですよね。ETTHでは普通に通じる言葉です。野菜のほうれん草と同じ発音だということも知ってますよ(笑)。

◆長期的なテーマには、どんなものがあるのですか。
Chitnarong 例えば、ペーパーレス・プロジェクトがあります。このプロジェクトでは、製造工程内で紙を一切使わないことを目指す取り組みです。現在はまだ、端末に入力するという仕事が残っています。これを、製造装置から自動的に情報をシステムに取り込めるようになれば、入力作業は必要なくなり、効率化が図れます。現在は、これを実現するシステムを開発しているところです。

◆これで一日が終わりですか。
Chitnarong いえいえ、これで午前中が終わりです(笑)。
午後も、まずはミーティングです。私は、ほかの部門の製造に一部かかわっていますので、そのミーティングに呼ばれることがあります。ただ、ミーティングは常にあるわけではありません。ミーティングがなければ、やっと自分の仕事を進められます。技術部門の仕事の手伝いや、治具の設計、データ分析などに手を付けます。
 帰宅時間は、もう力が残っていなければ18時ぐらいですね。力が残っていれば19〜20時ごろまで頑張ります。でも、日本のSAWチームの人たちに比べれば、私は結構早く帰宅するタイプです(笑)。

日本語能力を高めたい


◆この仕事の楽しい点、もしくはやりがいは何ですか。
Chitnarong 結果がはっきり出るところですね。製造工程の改善は、いろいろなデータを分析し、課題点を洗い出し、その要因をチームのみんなで考えます。一人だけで考えていると思い付かないアイデアも、みんなで考えると不思議と出てくるものです。そのアイデアを実際に製造工程に適用して、課題を解決し、その結果、例えば歩留まりが向上する。そのときは大きな達成感を感じますね。そして、次の課題にまたチャレンジしたいという気持ちが芽生えます。


◆それでは、逆につまらないと感じる点は何でしょうか。
Chitnarong ほかの人の力に頼らなければならない点です。実は、ほかの人に依頼することはあまり好きではありません。ほかの人はコントロールできませんし、なかなか急かすこともできない。結局、自分でやった方が早かった。なんてことは多々あります。
 もちろん、ほかの人の手を借りた方が良いこともあります。ただ、貸してくれた手が動かないこともありますし・・・。きっちり、手を動かしてくれる人と仕事を進めたいですね。

◆仕事を進める上で心掛けていることは何でしょうか
Chitnarong 人の話をよく聞くことです。特に、部下が問題を抱えているケースは、しっかり話を聞いて、一緒に問題解決の糸口を探るように心掛けています。しかし、私は短気で、実はじっとして話を聞くことは得意ではありません。黙って話を聞いていますが、心の中では「早く話をしてくれよ」と思っていることも多いですね(笑)。

◆自分に足りないものは何ですか。
Chitnarong 2つあります。1つは、日本語の能力です。日本人のスタッフとコミュニケーションを図らないと仕事を進められないことがあります。話している内容は、ある程度、理解できるのですが、まだまだ不十分だと感じています。読み書きについては、まったくできないですね。日本からの電子メールでの連絡は、英語で書かれていることもありますが、日本語だけのケースも多い。そのときは、ほとんど理解できません。

◆どうやって日本語を勉強していますか。
Chitnarong 日本語の学校などに通って、勉強しているわけではありません。業務の中で、日本人スタッフと一緒に話したり、聞いたりする機会を増やすことで身に付けようと努力しています。でも、ちょっと上達のスピードが遅いですね。もっと、頑張らなければならないと感じています。

◆もう1つの足りないことは何ですか。
Chitnarong 装置や機械に関する技術力がまだ不十分です。装置を改良すれば、生産効率が高まるだろうと思うことがあります。しかし、現状の知識では改良できない。そのため、課題は溜まっていく一方で、自分の仕事が大変になっています。何とかしたいですね。修理や点検に関する知識をもっと身に付けようと考えています。

日系企業にはたくさんのチャンスがある


◆日本の企業に就職した理由は何ですか。 
Chitnarong 日系企業は、いろいろなチャンスを与えてくれるからです。さらに、その人の能力が高いかどうかにかかわらず、育成してくれる点がいいところですね。たとえ成果がでなくても、解雇されることはほとんどない。一方、米国企業は、アクティブな人しか残れない。激しい競争の中で成長していくという印象です。
 タイ人の国民性を考えると、日系企業のスタイルの方が合っていると思います。私も、チャンスを与えてくれるところに惹かれて、日系企業を選びました。

◆ただChitnarongさんは、一度、エプソントヨコムに入社した後に米国企業に転職し、再び、エプソントヨコムに戻っていますよね。米国企業に転職された理由は何ですか。
Chitnarong そのときは、自分の能力をいち早く高めたいと思ったからです。それから、厳しい競争環境に自分を置くとどうなるかも確認したかった。米国企業に入ることで、速いテンポで成長できたと思っています。
 エプソントヨコムに戻ったのは、当時のETTH副社長だった越智さんに「SAWデバイスの製造ラインの責任者をやってみないか」と声を掛けられたことがきっかけです。米国企業から転職する気はなかったのですが、かなり魅力的な提案で・・・。身に付けたスキルを思う存分使ってみたかった。それにSAWデバイス・ビジネスという新しい世界を勉強する良い機会だったため、提案に応じました。

◆ETTHという会社の自慢できる点は何でしょうか。
Chitnarong 現地の社員に対して、多くのチャンスを与えてくれる点です。ETTHがいち早く自走化できるように、さまざまな場面でアイデアを出させられたり、決断させられたり、考えさせられたりしています。
 ETTHに入社する前の日系企業のイメージは、「頭の中のものは家に置いて、体だけ持っていけばいい」というものでした。つまり、何も考えずに、指示されたことをこなせばいい。そう思っていたわけです。しかし、実際は違いました。思った以上のことを任されています。やりがいを感じますね。

◆タイという国の良いところは何でしょうか。
Chitnarong 国王がいることです。現在の国王は、タイの国民全員の心を結びつける存在です。自分のためではなく、国民のために努力されている国王に、国民全員が尊敬の念を抱いています。

音楽演奏の練習所を社内に確保


◆趣味は何ですか。
Chitnarong 趣味はたくさんあります。音楽演奏や写真撮影、板でテーブルを作ったり、Tシャツにシルク・スクリーンで絵を描いたり。時間が空いたときに何をしようかと迷うぐらいです(笑)。
 これらの中で、現在最も力を入れているのは音楽演奏です。小さいころに、日本の三味線に似たタイの楽器を始めたことが、音楽演奏にのめり込むきっかけになりました。その後、15歳のときにギターに転向し、今はドラムをたたいています。忙しい中でも練習する機会を確保するため、ETTHの牛山社長にお願いし、社内に「ミュージック・クラブ」を設立してもらいました。私は、そのクラブの部長を務めています。専用の練習所も社内にあります。平日の夕方や土日など、仕事がないときに仲間と練習しています。

◆練習成果を披露する機会はあるのですか。
Chitnarong 社内で植栽を行う「グリーン・デイ」や忘年会などで、「すいません。演奏させてください」と頼み込んで、練習成果を披露しています(笑)。演奏する曲は主にポップスです。ただ、今年(2011年)の忘年会は、仕事が忙しくて、演奏を披露することができません。とても残念です。




(聞き手:山下勝己=テクニカル・ライター)


大切な仕事道具


私の大切な仕事道具は、手帳とパソコンの「Outlook」です。この2つの機能は、似ているのですが、私は完全に使い分けています。Outlookは、スケジュール管理のみに使っています。一方、手帳は、スケジュール管理には使わずに、会議の議事録や自分の考えをまとめるときのメモとして利用しています。考えをまとめる際には、「マインドマップ」の手法を使っています。これを活用すると、考えをまとめやすくなるからです。Outlookと手帳。いずれも仕事を進める上で、手放せない道具です。



インタビュー回想録


 初めて、タイを訪れました。食べ物もホット。気候も暑い。しかし、Chitnarongさんは、もっともっと熱かったです。見た目は、細身で繊細そうな印象。声は、とても穏やか。当初は、若干の頼りなさを感じました。ところが、インタビューが進むにつれて、その熱い思いが徐々に溢れてくる。「ETTHの自走化」という目標に向けて、工場の中で頑張っている姿が目に浮かぶほどでした。「目標に向けて努力する」。当たり前のことですが、なかなか実行できないことの重要さをタイの地で改めて認識しました(山下)。


   


epsontoyocomq-voxの自由文言1

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